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2009年4月25日 (土)

『PUNISHER』第60話(最終回) 「そして世界は回りだす」

 I am nothing and should be everything


















































 我は無なり されば我は一切たるべし

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 以前、某所で、こんな発言をしてしまったコトがある。

 「私のブログの文章は、(マンガの)感想なんて呼べるシロモンじゃないですよ」

 コレは謙遜でも韜晦でも無い。当時も今も、本気でそう思っている。
 そう言ったあとに、他の方が、こう言ってくれた。

 「感想と言うより、ラブレターなのかな?」

 ああ。言われて気がついた。そのとおりだ。

 この作品は、私にとって一体なんなのか。
 この作品から、私は何を受け取った(つもりになっている)のか。
 どうせ、今までそんなコトしか書いてこなかったのだし、これからだって変わらない。
 どう思われてしまうのか、そんなコトは気にしないで、ただ書こう。
 どっちみち、ラブレターと言うのは、基本的に「傍迷惑なモノ」であるコトを免れられないような気がするし。

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 君にあげられるモノって 何かあるかなあ
 僕には欲しいモノだって無いし これじゃ取り引きにならないね

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 アルトという少年は、争うことを怖れるあまりに、今まで自分の可能性を粗末にしてきた。
 他人様に迷惑をかけたり、波風を立てるくらいなら、おとなしく禁固刑に服してしまおう、と考えてしまうくらいの、度し難いほどの穏健さ。
 見ていてもじれったいくらいのアルトの優柔不断は、思い出してほしい、第1話、寒風吹きすさぶ船上で、震えるミルキィに自分の毛布を与えた、救いがたいやさしい心と根は一緒なのだ。
 およそ人間の世界では生きづらいコトこの上ないアルトの性格は、ヒロイック・ファンタジーという「風呂敷は広げてナンボ」の世界で主人公を張るには、ふさわしくないように見える。
                2008年5月28日 (水)

 私は、そんなアルトが大好きだった。

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 僕はまるっきりの初心者 この世界でどうふるまっていいのかわからない

 そんな僕こそが ここではまともなんだ そう思わないかい?

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 「はみご」、と言う言葉をご存知だろうか。

 ときに冗談半分で、多くの場合本気で、「自分、はみごにすんぞ」などと言うふうに使われる。

 おそらく関西以西でしか通じない言葉なのだろう。
 関東圏における、「村八分」から転訛した「ハブ」に相当する言葉だ。

 仲間はずれにする。

 「はみご」にしろ「ハブ」にしろ、これらの単語を耳にして、思わず身を竦めてしまう人もいるのだろうなあ。
 いるなんてもんじゃない。
 私自身が、まさに、そういう種類の人間だと思う。
 他人事みたいな言い方はよそう。

 この、人間の世界は、苦しい場所なのだ、と思いながら大きくなった。
 人間に向いてないのだ。
 何かの罰で、間違ってココに生まれてきたのだ、と。
 私にとっては、この世界は「満喫」するための場所ではなかった。

 なにもかもが嫌いだったと言うことを、どう説明すればいいのだろう。

 友達がほしい。
 恋人がほしい。
 ひとりぼっちにはなりたくない。
 これらは、自分以外の人間には、決して気取られてはならない願望だ。
 何故なら、この人間の世界で上手にやれていけていない自分、いつまでたっても愛されない自分についての告白だからだ。

 愛されるにふさわしくない自分。
 実は、この程度の自分。
 そんな自分を認めて、生きていくのはつらい。 

 だから私は、「こんな世界なんか、滅んでしまえ」と呪う人間の方に、感情移入してしまいがちである。
 少年マンガのヒーローならば、
  「どんなに理不尽な世界でも、俺は人間の世界を愛している!」とかなんとか雄叫んで、この世界への呪いを斥けるのだろう。

 ふざけるんじゃねえ。
 愛されたかった。
 でも、駄目だった。
 「理不尽」ってのは、つまり、そういうコトだ。
 こんなひどい話があるか。

 正しいとか、間違ってるとか、そんなことはどうでもいいんだ。
 誰かのせいとか、自分のせいとか、そんなこともどうだっていい。

 ただ、愛されないってことは、誰にとってもつらいことだ。
 それを知っているのなら、せめていっとき、耳を傾けてやってくれ。
 愛されなかった人間が、この世界へ贈る呪詛を、一心に聴いてやってくれ。

 私は、この世界を滅ぼそうとしている死神の言い分の方に、興味がある。

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 僕と君が一緒にいるコト 大事なのはそれだけ
 他の奴ら みんな どうなったって構わないさ

 この愛 君への愛はほんもの

 だけど 僕たちは この世界では まるっきりの初心者なんだ

 眼はしっかりと見開いているつもり だけど
 いつだって いつだって 気持ちはとんがってしまってる

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 「正義のヒーロー」にとっては、この世界の平安は自明の正義かもしれない。
 だが、その世界の中に、愛されなくて傷ついた誰かの居場所はあるのか?

 『PUNISHER』の主人公、アルトとミルキィは、明らかに「この世界からはみごにされた」存在である。
 この世界の片隅で、泣いてばかりいた小さな子供たちだ。
 そんな二人が出会い、少しずつ変わっていく、その姿が、大好きだった。

 第57話「二人で」での、アルトとミルキィの会話は、何回読んでも泣けてしまう。

 私は…
 口だけデカいのに何もしなくて
 アルトも…
 腕っぷしは強いのに気は弱かった
 でもさ
 アルト ザイナーハと戦ってから
 なんか…変わったよね
 どこか…前向きになったっていうか…
 そしたらさ…
 私 急に自分がちっちゃく見えちゃって…

 でっかかったら困るさ
 僕が…守れなくなる
 ヘンなこと気にするなよ
 2人でゆっくり…大きくなればいい

 私のような人間にとっては、「誰かに愛されると言うコト」は、ほとんどなにかの奇跡のようなモノだ。
 自分と言う存在が、誰かの心の中に棲んでいる。
 ただそれだけのコトだが、それだけのコトが実は、この世界に生きていてよかった、と心底から思える瞬間ではないのか。

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 『PUNISHER』と言う物語は、まだ始まったばかり(!)であり、語られるべきコトは山ほど残されていたはずである。
 最終回を迎えても、結局、ほとんどの「謎」は明らかにされないままだった。
 今まで広げてきた風呂敷を、あえて畳もうとしないままだったのだ。
 それでいい、と私は思う。
 無理矢理畳む必要なんか無い。
 やけくそでもなんでもなく、そう思う。
 設定や伏線の辻褄合わせに汲々とするよりも、よほど潔く、美しいラストだった。
 最後の最後に、アルトとミルキィ、二人の心、二人の絆を描くコトに重きをおいたのは、絶対に正しい。

 最終回、死神と親しくしてきた暗闇を通り抜けて、アルトの腕の中にミルキィが飛び込んでくる場面は、圧巻だ。

 この世界の片隅で泣いてばかりいたアルトとミルキィが、世界の中心になった瞬間。
 こんな奇跡を目撃したくて、私はずっと『PUNISHER』に肩入れしてきたような気がする。

 この感動的なクライマックスの背景には、是非、この曲が流れていて欲しい。

 アルトとミルキィ、二人の出会いから、ここまでの道程を彩るのにふさわしいナンバーだと思う。

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 君にあげられるモノって 何かあるかなあ
 僕には欲しいモノだって無いし これじゃ取り引きにならないね

 僕はまるっきりの初心者 この世界でどうふるまっていいのかわからない

 そんな僕こそが ここではまともなんだ そう思わないかい?

 僕と君が一緒にいるコト 大事なのはそれだけ
 他の奴ら みんな どうなったって構わないさ

 この愛 君への愛はほんもの

 だけど 僕たちは この世界では まるっきりの初心者なんだ

 眼はしっかりと見開いているつもり だけど
 いつだって いつだって 気持ちはとんがってしまってる




 もし 僕らのこのラヴソングが
 空を翔けて 山々を越えて
 海に笑いかけたり出来たなら

 それってまるで 映画みたいだね

 なのに何故
 僕ら どうしていつも こんなにつらいんだ?
 心かたくなに 言い募ってしまうんだ?

 理由なんか無くたって それは紛れも無い真実なんだ




 なにがあったって どうせ大したこっちゃない
 僕たちが この世界に一撃を加えてやろうよ

 この世界にあっては 僕たちはウブな初心者 上手なやり方を知らない

 分不相応な賭けをさせられている気分だよ

 君が微笑んでくれるなら
 僕は それ以上欲しいモノなんて無いんだけどなあ

 この愛 君への愛はほんもの

 とは言っても 僕たちは全き初心者 この世界でどう泳いでいけばいいのかもわかっちゃいない

 でも 僕が君を愛しているように 君が僕を愛してくれるなら
 きっと 怖れるモノなんか なにも無いのさ




 もし 僕らのこのラヴソングが
 空を翔けて 山々を越えて
 胸の痛みを乗り越えて どこまでも航海して行けたなら

 それってまるで 映画みたいだね

 だったら
 どんな苦難の時も つらくなんかあるもんか
 君を傷つける言葉なんか もう要らない

 誰がなんて言ったって それは紛れも無い真実なんだ

                (DAVID BOWIE/『Absolute Beginners』)

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 今はただ、

 『PUNISHER』の構想のすべてを、もう目撃する事が出来ないのが、悔しい。本当に、くやしい。
 しかし、「おそらくは不本意な形での最終回」において、アルトの言葉は、『PUNISHER』と言うマンガが伝えたかった(と、私が勝手に思っている)事を言い尽くしている、ような気がする。

 世界も…死神も…
 関係ない
 結局僕が守りたいのは一つだけだったんです
 そのためだったら僕は────
 誰とでも戦いますよ

 大事な誰かと一緒に在ること。
 それ以上に大事なことなんて、たぶん、どこにもないのだ。

 「死神になりたい少女」だったはずのミルキィは、ラスト、死神に怯えて震えている。
 ミルキィにとって、アルトがいる世界は、もう「滅びてもいい世界」ではなくなったのだから。

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 『PUNISHER』の最終回を見届けてしまったら、自分はきっと、虚脱してしまうだろう。
 そう予想していた。
 しかし、実際に最終回を読んで、胸に湧いてきたのは、もっと別の感情だった。 

 でも
 どうせ戦うなら
 2人でだ…!!

 アルトとミルキィは、もう、ひとりぼっちではない。
 そう思うと、胸が熱くなる。

 この2人が主人公でよかった。
 この2人でなければ、『PUNISHER』と言うマンガは、ここまで私の心をつかまえなかった、と思う。

 あとは、
 とにかくもう、
 アルトとミルキィには、絶対に幸せになって欲しいんだよ!

 2人で!

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 佐渡川先生。
 お疲れ様でした。

 『PUNISHER』に、アルトとミルキィに出会えて、本当に良かった、と思います。

 本当に、ありがとうございました。

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 今、『PUNISHER』第1巻を読み返して、不覚にも泣いております。
 大のオトナが。

 旅人がいた

 人並み外れて
 夢は大きく
 欲も深いが
 学ぶということを忘れた
 ――ゆえに路頭に迷う

 彼女の旅はどこで終わるのか



 旅人がいた

 流されるように家を出て
 色々な場所の夜を見る

 夢もなく
 欲もなく
 今日も自分の可能性を
 夜に捨てる

 ――ゆえに路頭に迷う

 彼の旅はどこで終わるのか

 そんな「彼女」と「彼」が、出会って、そしてどんなふうに変わっていったのか。
 私たちは見てきた。

 さよなら。

 元気で。

 アルト。

 ミルキィ。

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